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ネは粘性のネ
石川

 テキストやプリントなどをワープロで作成していると、「1年生」や「2年生」の「年生」の部分が「粘性」と変換されてしまい、困ることがあります。
 なぜか慌てている時に限って「粘性」が第一候補に出るような気がします。勢いあまってそのまま確定してしまい、打ち直さなければならなくなったことは数知れず。行儀が悪いのは分かっていても、小さく溜息をついて、ちょっとイライラしてしまいます。
 
 ところで「粘性」とは「ねばりけ」、つまりどれぐらいドロッとしているかを表すものですが、この粘性に関して1927年にオーストラリアのクイーンズランド大学で行われた面白い実験があります。粘性のすごく高い(=すごくドロッとしている)ピッチという液体が滴り落ちるのを観察するという実験です。
 
 ピッチは固体のように見える硬い物体ですが、実はものすごくドロッとした液体で、長時間かけると水のように雫になって落ちてきます。その様子を学生に見せてやろうと同大学のトーマス・パーネル教授が始めたこの実験、なんと最初の1滴が落ちるまでに約8年かかったそうです。
 
 実験を見せてやりたかった学生は、とっくに卒業していたと思いますが、残念なことにピッチが落下する瞬間は教授自身も目撃できませんでした。その後も実験は継続されて、2滴目の落下は1滴目の約8年後、3滴目はその約7年後、4滴目はその8年後、…という気の長い実験です。
 
 しかもこの実験、80年以上経った現在も継続中です。実験を始めたパーネル教授は一度も落下の瞬間を見ずに亡くなってしまいました。現在実験を管理しているジョン・メインストーン教授によれば、9滴目が今年中に落下するだろうということです。
 
 過去8回とも落下の瞬間は目撃者がおらず、映像記録もありません。まるでピッチは見られるのを拒むかのように、無人のときや記録用カメラがトラブルを起こしたときに落下しています。城端線で電車を逃すと次の電車まで1時間待たされてガックリですが、ピッチの落下を見逃せば約10年待ち。そうなれば、長年関わってきた人たちはガックリどころか悔やみきれないでしょう。今回こそは落下の瞬間を目撃して記録に残そうと関係者は燃えているそうです。インターネットで実験のライブ映像を見られますよ。(http://bit.ly/u1eN8h)
 
 この実験を見習って、自分もパソコンが「年生」を「粘性」と変換してもイライラせず、心穏やかに粘り強く作業することにします。日々是精進。

J-PRESS 2013年 6月号