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私は「ノロッコ号」で考えた
石黒

 同級生から、29年ぶりに北海道でLIVEコンサートを決行する、メイクを是非お願いしたいとの電話連絡。「無理無理!その週は忙しくて」「LIVEのほうが優先順位高いっしょ」。押切られ止む無く小松空港からの航空券を予約、宿泊先も確保。せっかく北海道に行くならとガイドブックを眺めていると、「釧路湿原ノロッコ号(国立公園釧路湿原、釧路⇔塘路・川湯温泉間を走る季節列車)」が運行中との情報をゲット。
 
 これだっ!、JR高岡駅・みどりの窓口へ。「釧路から川湯温泉まで。出来ればノロッコ号の指定席で…」、応対に出た女性職員はなぜか奥の事務室へ。分厚いマニュアルを抱えて戻りノロッコ号の詳細が載ったページを広げ発券端末と睨めっこ。「よろしければ18番Aのお席お取りします、左手に釧路湿原が…」、小躍りしながら「お願いします!」「指定券300円になります」、スキップしながら職場に戻った。
 
 羽田を経由し北海道へ(中略。LIVEの様子はYouTube、PEebで検索を)。
 翌朝、釧路駅で待望のノロッコ号に乗車、JR女性職員の機転で左側車窓に広がる湿原を満喫。蛇行する釧路川を滑るように進む原色のカヌー。線路に横たわるエゾシカが移動するまで列車は臨時停車、運転士は手にした笛を鳴らしキタキツネの親子に危険を知らせる。塘路湖を過ぎ湿原から原生林へと風景は変貌、向かいの幼女が「あっツルだ!」。JR茅沼駅職員の長年わたる給餌により、車窓からタンチョウ鶴のダンスが楽しめる。
 
 「よろしければどうぞ、私達だけでは食べきれませんから」、幼女の母親手作りの玉子焼き、タコさんウインナー、おにぎり弁当が目の前に。もうお友達…絵本、列車探検、なぞなぞ、あっという間に終点。そこから人生初めての「レンタミニバイク」で屈斜路湖畔を軽快に走行、すれ違うバイク同士が互いに会釈を交わすことを発見。どこを掘っても温泉が出る湖畔には無料露天風呂が点在、温泉三昧極まり。
 
 夕刻気温3℃、小雨の中を時速30kmで疾走。馴染みの理髪店主の「バイク!?手袋しててもパーカー着てても…」との言葉を思い出すが後の祭り。体感温度は氷点下10数℃、手足・顔の感覚は皆無。やっとの思いで世話になる宿に到着。暖かくした食堂でヒメマスのお作り、山菜の天ぷらなど地元産のご馳走をいただく。宿泊客は私以外、寡黙に食事する65歳くらい眼つきの鋭い男性Fさんただ一人。
 
 「マタギのFさんが仕留めてきた鹿のレバーです」、茶色の肉を盛った皿が出された。「よろしければ…」、Fさんの鋭い眼つきが一瞬優しくなった。(マタギ=クマなどの大型獣を捕獲する技術と組織をもち、狩猟を生業とする人)

J-PRESS 2012年 3月号