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オはおバカのオ
石川

 昔のクイズ番組といえば「どれだけ難しい問題に正解できるか」を競うものだったような気がします。いわゆる文化人と呼ばれる人が難問に正解するのを見て「さすが」と納得したり、俳優や歌手が歴史や数学などの高度な知識を披露するのを見て「へぇ」と意外な一面に感心したりしたものです。
 「アメリカ横断ウルトラクイズ」のようなスケールの大きいクイズ番組になると、知力・体力・時の運を兼ね備えた優勝者に対して惜しみない称賛が贈られたものでした。
 
 でも、最近のクイズ番組は「どれだけ難しい問題に正解できるか」ではなく、「どれだけ意外性のある間違った解答をするか」に注目が集まっているような気がします。
 たしかに「おバカタレント」と呼ばれる人たちが繰り出す解答は意表をつくものばかりで、思わず笑ってしまいます。
 「巴投げといえば何の技」という問題文を「びわなげといえばなんのえだ」と読まれてしまうと、確かに似てるよなぁと盲点を突かれると同時に笑いのつぼも突かれます。
 「フランスの首都は?」という問題に対して「ジュマペール!」なんて答えられた日には、なんじゃそりゃぁ、と松田優作ばりに突っ込みつつ爆笑です。
 
 こういう笑える間違いに共通しているのは「想像の範囲を超えて、何かを突き抜けていること」、そして「解答者が一所懸命考えて間違えている」ことでしょう。「フランスの首都は」に対して「ロンドン」だとありがちで今ひとつ笑えません。最初から正解するつもりが無く、あきらめモードで答えられた間違いにも全然笑えません。
 
 自分にも似た経験があります。試験監督をしていたとき「応仁の乱のあと日本中で争いが続いた時代を何時代というか」という問題に対して、悩んだあげく「イヤな時代」と書いた生徒がいました。それを見て試験中なのに大笑いしそうになったことがあります。
 
 ただ、塾講師らしいことを言わせてもらうと、こういう番組を観ている子供が「勉強は出来なくてもOK」と思ってしまうんじゃないかと心配です。自分たちより劣った存在がいることを見せて大衆の不満をそらすのは、昔から為政者の常套手段なので、こういう芸能人の需要はなくならないでしょう。でも、芸能人ではないわれわれ一般人は、普通「バカ」と言われて喜びませんよね? もちろん「勉強が出来ればエラい」「物知りだとエラい」なんて言うつもりはありません。でも、出来ないより出来る方が、知らないより知ってる方が、いろいろ楽しいんじゃないでしょうか。
 
 例外として、素敵な女性に「ばか♥」とハートマーク付きで言われるのは、個人的に大歓迎ですけど。

J-PRESS 2008年 10月号