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「ガッツポーズ」考
深田

 夏の高校野球は、佐賀北高校が劇的な逆転勝利で優勝旗を手にしました。決勝戦の8回、満塁ホームランを打った選手が、1塁を回ったところで右手を高く何度も突き上げている姿が、結果を知った上でニュース番組でその場面を見た私にもとても印象的でした。
 この場面に限らず、長打を打って得点を挙げた選手が塁上で二度、三度とチームメイトや観客席にアピールするシーンや、ピンチを三振で乗り切り「やった」という表情でベンチに戻る投手を見かけます。
 新聞に「高校野球のガッツポーズは慎んでもらいたい」という投書が載っているのを見たことがあります。高校野球連盟でも、あまりにも派手なふるまいは自粛するように指導しているそうです。
 相手チームへの「思いやり」を考えなさい、というのがその理由のようです。
 
 そんなに目くじらを立てて、杓子定規に考えることもないと思うのですが。
 
 礼に始まり礼に終わるといわれる、日本伝統の相撲や柔道でもマナーに変化が見られます。
 今何かと話題の横綱朝青龍が、勝って花道から支度部屋に引き上げる途中で付き人とハイタッチを交わす姿や、土俵に転がされた力士が砂をたたいて悔しがる様子がテレビに映し出されています。
 柔道でも、大きな国際大会などで優勝すると、敗者に礼をするのを忘れ、その場で何度も跳びあがり、コーチと抱き合い、応援団に手を振る光景を見ることがあります。
 
 派手なガッツポーズといえばサッカーを思い浮かべます。しかし、そのサッカーでもあまりに下品なパフォーマンスは禁止されています。当然だと思います。また、ラグビーではトライを挙げた選手は1人では喜ばないのが伝統です。15人の力が結集してトライに結びついたのだ、トライを挙げた選手はたまたまそこにいたのだという考え方が根底にあります。PK戦であくまで決着をつけるサッカーと、同点の場合は引き分け(ノーサイド)として、トーナメントでも抽選で次の試合への進出権を決めるラグビーとの違いでもあるのでしょう。
 
 喜怒哀楽の感情表現方法はルール・規則によって定められるものではありません。うれしいものはうれしいし、悲しい時には悲しい。
 あらかじめ計画されていたようなパフォーマンスは首を傾げてしまいますが、感情を素直に表現することに対して不快に感じることはありません。
 だからといって、他人のことを考えず人前で野放図に心情を吐露していいというものではないでしょう。そこには自ずと「たしなみ=平常からの心がけ」がなくてはなりません。
 要は、自然体という言葉に尽きるのではないでしょうか。

J-PRESS 2007年 9月号