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メは迷宮のメ
石川

 ときどき、迷宮をさまよってしまう。
 
 今こうしてコラムを書いている自分の眼前に置いてある「三省堂 国語辞典 金田一京助 編(定価550円)」という名の迷宮を。
 
 昭和35年初版第1刷、手元にあるのは昭和47年の第106刷だけど、それでも相当古い。ケースなんかボロボロ。なのに、なぜだか捨てられない愛用の1冊。
 
 暇なとき適当なページをめくると、そこには言葉の迷宮がてぐすね引いて待っている。ひとつ言葉の意味を調べると、その説明の中の言葉や隣に並ぶ見出し語が気になってさらにページをめくる。するとまたそこの言葉が気になって…まさに迷宮。
 
 今日もまた危険を承知で迷宮に足を踏み入れてしまった。最初に目に留まったのは鶯(うぐいす)。
 
【鶯】
 背中はオリーブ色で、軒先に来て、綺麗な声でさえずる。
 
 先週古城公園で見かけたことを思い出しつつ隣を見ると、ウクライナ。
 
【ウクライナ】
 ソビエト連邦に加盟する共和国。
 
 この辞書が出た当時ベルリンの壁は崩壊してなかったか、と感慨にふけりながらソビエト連邦へ飛んでみる。
 
【ソビエト連邦】
 ロシア革命の結果、1917年に新しくできた国。
 
 1917年で「新しく」なのか。歴史のスケール感はやはり大きい。そういえば、今月の誕生石にはロシア皇帝にちなんだ宝石があったはず。
 
【アレキサンドライト】
 6月の誕生石。
 
 そうそうこれ。6月の誕生石は真珠のほうがメジャーだけど。そういえば6月の別名って何だっけ。
 
【6月】
 1年の第6の月。水無月。
 
 梅雨で水は豊富なはずなのに水無月とはこれ如何に。で水無月を探しているとすぐそばに、南。
 
【南】
 日の出るほうに向かって右の方角。
 
 じゃあ右ってどう説明するんだ、とページをめくる指が一瞬止まる。いやな予感が。
 
【右】
 日の出るほうへ向かって、南のほう。
 
 やっぱり…また抜け出せない迷宮に迷い込んでしまったらしい。アリアドネの糸はどこだ…

J-PRESS 2007年 6月号