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私は「行列」で考えた
石黒

 35度を超える連日の真夏日、夏期講習会の疲労が蓄積、重い身体に鞭打つ毎日。講習会の合間をぬって生徒達が出かける人気スポットは、今も昔も東京ディズニーリゾートが断然一位。一過性の万博など眼中に無い数万人の老若男女が、開門と同時に新アトラクションに行列を作る。「テーマパーク界の勝ち組み」と称されて久しい企業が、更なる顧客満足度やリピーター率の向上を狙い怒涛の波状攻撃。並ぶゲスト(お客)も真剣勝負の数十分。お土産のチョコレートやクッキーが届けられる。「新しい●▲スピリッツって待ち時間は何分くらいだった?」「120分以上でした」。
 
 お隣の石川県金沢市。郊外型の飲食チェーンのみならず、市街中心部でも出店ラシュッが加速。新規参入と勇気ある撤退で、街は新陳代謝を繰り返す。創業20年、日本全国に店舗展開し今や30数店舗を擁するラーメンチェーンが出店。血糖値が気になる年齢を省みず、気温34度をものともせず30数人の最後尾に陣取る。炎天下に並ぶ顧客の心の動きを細かく分析したマニュアルに基づき、従業員が声をかける。店内までまだ10メートル、15分はかかるタイミングで「お客様何名様ですか? カウンターですと直ぐご用意できます。メニューをご覧下さい、コクのあるのが■★そばです」。
 
 地元マスコミのグルメ番組に煽動され、私もショッピングセンター、飲食店で些細な行列を体験。エスニック料理、メロンパン、ラーメンに自称美食家が群がり大繁盛、通り過ぎる人は長蛇の列に驚嘆の眼差し向ける。並ぶ人間も熱い視線に快感を憶え、自分の行為の正当性と価値を確信。「最新情報を入手しいち早く行動している」。行列の大多数が潤沢な広告費を提供する企業とマスコミの猿芝居である事、供給量の巧みな調整の為せる技である事に気付かない。眼差しは前方のお目当ての商品を見つめつつ、後ろの人数の確認も忘れない。「確実に行列は伸びている、遅れた奴らだ」。
 
 一昨年、行列の本場:中国上海を訪れる機会があった。人口1500万人(推計値)、80階建ての摩天楼が林立する巨大都市は、小さな島国から出てきた私を飲みむ。新旧入り混じった趣のある街並み、湯気の立つ食材でデジカメの256MBのメモリーは一杯。創業100数十年、上海ナンバーワンとの呼び声の小籠包の行列に並ぶこと1時間。前列の中国人の女子大学生が流暢な英語で話し掛けてきた。「韓国人?」「日本人です」「観光?」「はい、貪欲に廻ってます」「ちょっとお金出してみて」「えっ!?」。中国元の紙幣の裏を指差し彼女は「ここに行った? こんな時間があるなら」。そこには雄大な山々が描かれていた。

J-PRESS 2005年 9月号