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15歳の驚異
深田

 先月17日にプロ野球のドラフト会議が行われた。東北高校のダルビッシュ投手、明治大学の一場投手、シダックスの野間口投手など実績豊な選手が指名された。その中で私が注目したのが辻本賢人投手。
 
 阪神タイガースが8巡目に指名した選手だが、ドラフト制度が導入された昭和40年以降、最年少の15歳。
 スポーツニュースだけではなく、ワイドショーや新聞などでも大きく取り上げられたので、野球に興味がなくても知っている人が多いのでは。
 
 身長181センチ、体重75キロという堂々とした体格やその投球ホームはすぐにでもプロで通用するのではと思わせる。一方、丸刈りの頭や時折見せる無邪気そうな表情はやはり15歳だと感じさせる一面も。
 
 発言もそうだ。ドラフト指名直後には「びっくりした、うれしかった」と素直に喜びを表現し、プロ契約後の初練習でも「緊張しました」と初々しい言葉。他方、「阪神にお世話になるので、監督になるぐらいまではいたいです」「プロ入りがゴールインではない。時間はかかると思うけど、できるだけ早く投げたい」と、なかなか普通の新人では言えないと思わせるせりふも。
 
 スポーツ界では、若くして頭角を現す例は少なくない。アテネオリンピックにも出場した卓球の福原愛選手やJリーグで活躍している東京ヴェルディの森本貴幸選手は辻本選手と同じ学年である。
 
 それぞれの選手は、生まれついての才能、素質だけではなく、自らの努力でスターへの階段を上っている。辻本選手は中学1年で単身アメリカに渡り、野球の技術を磨き、スポーツコンディショニングに関する知識も現地の学校で身につけた。また、自己管理も徹底していて、夜9時以降は食べ物を口にせず、糖分の多いジュースなども飲まない。さらに、胃に負担をかけないために食事は1日8回に分けているそうだ。
 
 また、忘れてならないのは、彼・彼女たちの活躍の背後には必ずその才能を引き出し、育ててくれる指導者がいるということである。技術的なコーチに限らず、人生の師匠と呼ばれる人間かもしれない。辻本選手の場合も、父、仁史さん(44)はアメフトの強豪高で元QB。口癖は「物事を途中で投げ出すな」。飲食・アパレル関連のビジネスを海外にも幅広く展開する実業家。家庭環境も現在の辻本選手を生み出す背景となっているのだろう。
 
 天才と呼ばれながら、その素質を埋もれさせたまま消えていった若者も少なくない。発展途上の若者がその才能を開花させるかどうかは、本人の努力、精進とともに周囲の指導力や人間力が問われている。15歳の指名に驚き、同じような年代に囲まれている自分自身をもう一度思い返すきっかけとなる出来事だった。

J-PRESS 2004年 12月号