城西セミナー城西セミナー

デはデジタルのデ
石川

 音という情報を0と1、たった2つの数値に置き換えて記録するCDは、デジタル。アナログのレコードに比べて温かみがないと言う人もいるが、本来情報を記録する手段として自然なのはデジタル。人間は昔から、自分の考えをわずか数千種の文字という記号に置き換え記録・伝達してきた。
 
 メールやワープロの文書には手書き文字の温かさがないと言う人もいるが、ペンや鉛筆なんて毛筆に比べれば無味乾燥という人もいる。要は読み取る側の意識と想像力の問題。
 近い将来、お金も紙幣や硬貨の代わりにデジタルデータが貨幣として流通するようになるだろう。いや、今だって既に銀行預金などはデジタルデータとして記録・処理されている。
 
 デジタルとアナログの違いは何か?
 それは、正確な複製が作成できること。アナログで記録されたものは複製するたびに情報の欠落が生じ、オリジナルと違ったものになる。しかし、デジタルで記録されたものを複製してもオリジナルとの差異はない。たとえば、このコラムの原稿もデジタルで記録され、いくつかの複製がある。書いてる自分だってオリジナルがどれか分からないし、オリジナルかどうかは重要でない。
 
 私事だが、先日CD-Rというものを購入した。パソコンを使って、手軽にCDを作成できる便利な機械だが、自作のプログラムやデータを保存するのにはなかなか便利。しかし、これを市販CDのコピーに使う人も多いらしい。ここでデジタル特有の問題が生じる。
 「自分で買った」CDを複製しての私的(3親等以内)利用は判例でも認められている。しかし、「レンタルした」CDを複製することは、データを盗んでいるわけで、簡単に言えば泥棒である。
 物体としてのCDを盗んでいるわけではないので罪悪感がないかもしれないが、対価を払わず同じものを手に入れれば、立派な泥棒である。
 
 買えないから仕方がない? それは「我慢」という言葉を知らないだけ。
 
 もちろん自分もCDをMDにダビングして友達にあげたりもらったりする。これも違法。ただ、MDは無制限にダビングできず、ディスクに著作権者への補償金が含まれている。CD-Rでは、無制限に複製でき、しかも著作権者に補償がない。(データ用CD-Rの場合。音楽用には補償有り)
 貨幣がデジタルデータになったとき、他人のデータをコピーして「減らないからいいじゃん」というわけにはいかない。大量のデジタルデータを扱い、保存できるようになった現在、人間にはこれまで経験したことがない新しい感覚が必要になってきている。
 
 しかし、最初に述べたように、デジタルは情報を記録する手段として自然な姿。人間も、T、A、C、G、たった4種類の記号で記録されている。
 私たちは、ヒトが情報を扱うための新しい手段と能力を身につけ始めた転換期にいるのかもしれない。

J-PRESS 2002年 11月号