城西セミナー城西セミナー

勉強しとけばよかった
木村

 "If I were a bird, I could fly. ─もし私が鳥だったら、空を飛べるのに─" 高校1年のときに習った仮定法は、それまでの時制(現在・過去)や人称(I - am、you - are)を崩壊させました。高校の英語はあくまで受験英語です、試験で点数をとることしか考えていません。大学で選択したドイツ語はというと、「bruderは英語のbrotherのこと、werdenはwill beで、定冠詞theは16種類、…」と文法を次々と詰め込まれ、前期試験の前にはもう仮定法さえ終わっていました。私のクラスのドイツ語の先生は、「落としのK」と呼ばれる厳しい先生(大学で「厳しい」とは、試験でおまけや追試をしてくれない先生のこと)で、高校のときと同じく、試験で60点取ることだけを考えていました(大学の赤点は60点です)。たしかに、今はドイツ語で1から10まで数えることすらできません…。
 
 みなさんが今、夢中になっていることは何ですか?いわゆる「はまって」いるもののことです。私が小学生のころから「はまった」ことは、町内対抗の野球、新しい漢字を覚えることや算数の教科書の問題を先に進めること、写真をとること、電車に乗って旅をすること、漫画、ゲーム、…。高校に入ってからは、ひたすら音楽を聴きました。洋楽やラフマニノフを聴きながら、少し大人になった気でいました。貧乏生活を続けていた大学生のころにも、「音楽にだけはお金をかけたい」とアルバイトをしたほどです。この趣味はずいぶんと長く続き、今でも趣味のひとつは音楽です。…最近は夢中になれるものが少なく、さみしい思いをしています。
 
 ある外国語を勉強しています。先日旅先のバス停で、降りてきた運転手に「Bonjour」と挨拶されて初めて、そこがフランス語中心の街であることを知りました。街の看板もフランス語、マクドナルドの料金表も、地下鉄のアナウンスもすべてフランス語、このとき、言葉がわかることの大切さを痛感しました、わかればもっと楽しいだろうなと。関係代名詞や仮定法ができなくても、せめて挨拶を交わしたり、マクドナルドで注文ができる程度になりたいと思い、始めてみました。ひょっとしたら、これが次の「夢中になれるもの」かもしれない、と密かに期待もしながら。それにしても、大学の第2外国語が単位を取るだけの語学だったなんて、いま思えばもったいないことをしたものです。まぁ、あの頃は、あれでいっぱいいっぱいだったんですけどね。

J-PRESS 2002年 2月号