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スイカを食べよう
深田

 今回はスイカの話です。
 
 夏のくだものといって思い出すのはやっぱりスイカではないでしょうか。
 
 縁側で庭先のひまわりを見ながらスイカにかぶりつく子供たち。家族へのおみやげなのか網に入ったスイカをぶら下げたおじさん。ポンポンといい音でスイカをたたきながら、「うまいよ」と声をかけてくる八百屋の親父さん。
 
 かつてスイカは夏の光景にはかかせない存在だったはずです。ところが、自分自身や周囲を見回してみると、ここ数年スイカの登場機会がぐっと減ってしまったように感じます。
 
 子供の頃は、毎日のように食べていたと思うのに、最近スイカを思いっきり食べたのはいつだったか思い出せないくらい縁遠くなっています。
 
 なぜなのでしょうか。
 
 スイカは食べ始めるとおおごとになります。大きくて一度には食べきれない。タネがやたらいっぱいある。上手に食べないと汁がたれてしまう。おまけに皮などのゴミが多量に出る。
 スイカをおいしく食べる環境が私たちのまわりからどんどん姿を消しているのです。
 
 汁をダラダラたらしつつ、タネをぺっぺ、ぺっぺしながら食べることができる縁側など、スイカをバックアップする条件がなくなりつつあります。スイカが一番おいしい温度は、井戸水で冷やす15度くらいだそうですが、井戸も見かけなくなってしまいました。
 いろいろなものが私たちのまわりから消えていき、それにともなって、スイカの地位も下がってきています。
 
 このままではいけないということで、スイカのほうでも努力を重ねてきたようです。大きすぎるといわれれば、小さな小玉スイカを生み出し、タネが多すぎるという意見には、タネなしスイカを作り出しました。
 
 ところが、体を小さくしたらしたで「小さいスイカなんて食べた気がしない」といわれ、タネをなくしたらなくしたで、「タネがないスイカはスイカらしくない」などといわれて、せっかくの努力も徒労に終わってしまいました。
 夏のくだものの王様として君臨していたスイカが、近い将来、絶滅してしまう日が来るのでしょうか。
 
 私は大学2年のとき、スイカの集荷場でアルバイトをしていました。各農家から集められたスイカを等級、サイズごとに箱詰めするのが私の仕事でした。その休憩時間に食べたスイカが私にとって今までで一番おいしいスイカだったように思います。
 
 見た目は悪いし、冷えてはいないし、普通に食べると決しておいしくはなかったと思いますが、アルバイト全員がむさぼり食べていました。
 
 夏のすごく暑い日に汗をかきつつ「あっつーい」などと言いながらかぶりつくスイカはとてもおいしいのです。現実に暑い夏には売り上げ頭打ちのスイカもそれなりに売れるそうです。
 
 太陽カンカン照りの暑い日に、エアコンをガンガンきかせている現代の生活は、スイカをおいしく食べる最低限の夏の暑さまで、私たちのまわりから奪ってしまったのでしょうか。

J-PRESS 2001年 7月号