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私は「503i」で考えた
石黒

 高校合格者発表当日の午後。私のコンピュータにメール(e-mail)が続々と着信。「今、発表から帰ってきました。A、FがTS高校に決定しました。他の人は連絡がついていません」「N中学校の卒業生、誰か来ましたか?」「T高校の宿題を持って行きます」。合否を確認した足で販売店に向かい、携帯電話(大半が503i)を購入し、発信している模様。
 
 日本における携帯電話は6,000万台を突破、うち2,000万台がi-mode機能付。人口の半分以上が保有し、情報伝達・メールに活用。新聞・テレビには「月々3,000メール無料」の文字が踊る。1ヶ月3,000メール=1日100メール?! 高校生曰く「気付いたら70メール」「メル友20人に『おはよう』だけでも大変」「話すとお金かかるから殆どメール」。
 
 メールにどっぷり浸かっている女子高校生に対する、ある「試み」をテレビで観た。彼女、食事中・入浴中であっても携帯を離さない、些細な事柄もメールで。番組は彼女から24時間だけ携帯を取り上げる。即、友達から家の電話に「どうして携帯つながらないの!」。待ち合わせ場所に行ったけど相手が見つからない、メールで今の自分を伝えたい。10時間後、彼女の表情・言動は明らかに情緒不安定に。落ち着かない、不安でたまらないと泣き出す始末。収録後、携帯を再び手にした彼女は、不思議な安堵感に包まれていた。
 
 出勤時の持ち物チェック。①財布 ②時計 ③鍵 ④携帯 ⑤パソコン…。忘れて1番困るのは携帯、落ち着かない悲惨な一日となる。きっと緊急の用件がある、誰かが私を探していると思うと、メール機能も付いていない旧型であっても、居ても経っても居られない。出勤途中、どんなに約束の時間が迫っていても「あっ、携帯忘れた!」で即Uターン。
 
 たかがコミュニケーションツールのひとつ。しかし肌身はなさず「携帯」しないと、暗闇に居る不安感に苛まれる。意思疎通・情報伝達の手段を失う、ビジネスチャンスを逃す、預金・天気・株式相場をリアルタイムに掌握できないから?!これらは他のツールでも可能であり、i-mode機能がドラスティックに変革させたとは考え難い。携帯を所有する目的として、6,000万人の組織に所属する連帯感・安心感の享受が頭をもたげる。
 
 「日本人は専ら指先でコミュニケーションを行い、友達さらには恋人同士の『会話』にも携帯・メールが活躍。(中略)我が国におけるコミュニケーションは、直接会って話すことを長年にわたり重要視してきた。少なくとも恋人同士が携帯電話を『会話』の中心に据えるまでには、相当の時間を要するであろう。」 在日アメリカ人新聞記者のコメントである。

J-PRESS 2001年 4月号