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名前の裏には…
深田

 今月は名前についてのお話です。私たち1人ひとりには名前があります。また、世の中にあふれているものにもそれぞれ名前がつけられています。みなさんの名前はきっと、お父さんやお母さん(場合によってはおじいさん、おばあさんなど)がいろいろ希望を託して名づけられたことだと思います。会社の名前や新製品の名前を決めるときにも同様なことが言えるようです。興味深く感じたものをいくつか紹介してみたいと思います。
 
 「Kodak」カメラやフィルムを作っている会社の名前です。1888年、ジョージ・イーストマンがこの名前を考え出すとき、その条件は「どこの国の辞典にもない言葉」だということでした。世界中に通用させるためには特定の意味を持たないものがいいと考えたようです。あとは、自分がアルファベット26文字の中で一番好きなKを頭と終わりにつけること、長い語は覚えきれないので5文字以内にすることを条件にあれこれ組合わせ、並べてみました。
 
 「簡潔で活気があり、誤記のおそれがなく、どこの国の人でも同じように発音でき、なおかつ、どこの国の言葉にもなく、なんの特別な意味もない言葉」という基準で選んだのがKodak、すなわちコダックだったのです。今では固有名詞としてだけではなく小型カメラ一般をあらわす普通名詞としても使われるようになりました。どこの国の辞書にもなかった言葉が多くの国の辞典に掲載されるまでになったのです。ジョージ・イーストマンの願いがかなったといえるでしょう。
 
 カメラ会社の名前を続けます。「ミノルタ」こちらは日本の会社です。最初会社ができたときの名前は「日独写真機商店」。その後「千代田光学精工」「ミノルタカメラ」「ミノルタ」と変更されてきました。
 
 MINOLTAとカメラやOA機器に表示されているので外国語だと思うかもしれません。しかし、これは日本語で「稔る田」という意味なのです。社長が日頃お母さんから「稔るほどに頭を垂れる稲穂のように謙虚でありなさい」と言われていて、そこからとった言葉なのです。「MINOLTA」「ミノルタ」「稔る田」表記の仕方が変わると受ける印象も違ったものになりますね。
 
 「Canon」こちらもカメラやコピーでおなじみのブランド名です。この言葉も日本生まれです。最初の会社名は「精機光学研究所」。この会社が新製品のカメラにつけた名前が、創業者が観音教の信教だったことから「カンノン」。なんと観音様が由来だったのです。ところがいざ販売と言う段階で、カンノンでは先端技術の商品になじまないのでは、という意見が出て、少し変えてCanonとしたのです。こうしてCanonというブランドが生まれ、それに合わせて社名も変更になったのです。
 
 ところで、私たちはごく自然にCanonを「キャノン」と呼んでいると思います。ところが正式な社名は「キヤノン」です。なぜ「キャノン」ではなく「キヤノン」なのか、これはデザイン的に「キヤノン」のほうがきれいに見えるという理由だそうです。
 
 1つの名前の裏には、さまざまな人の思いが込められているようです。そんなことを考えてみるのも、時にはいいかもしれません。

J-PRESS 1999年 10月号