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地球にやさしい?
石川

 地球上の生物の90%が死滅。
 
 原因は猛毒を発生するバクテリアの大繁殖。
 
 これはSFでもインチキ予言でもなく、二十数億年前の地球で実際に起こった事らしい。
 大繁殖したシアノバクテリアが、光合成によって二酸化炭素から酸素をつくり、地球の大気を酸素で満たす。人類にとっては大切な酸素も、当時の生物には猛毒の気体。こうして地球上の生物分布は大変化を起こした。
 
 現在、人類が増えるにつれて、地球環境は大きく変化している。温暖化、砂漠化など。これらを環境「破壊」とよぶ人もいるが、あくまで「変化」である。
 酸素の急激な増加は、酸素を必要とする生物にとっては歓迎すべき環境「変化」だが、当時の大部分の生物にとっては環境「破壊」だ。「破壊」も「変化」も立場の違いに過ぎず、都合がよければ「変化」、悪ければ「破壊」と言っているにすぎない。
 
 環境「変化」で地球が死の星になることはない。たとえ核戦争が起きたとしても、それより大きな変化は過去にいくつもあったし、それでも生命は生き続けた。ただ、恐竜が絶滅したように、環境が激変すれば主役も変わる。今の環境が大きく変われば、人類に代わって新しい生物が繁栄するだろう。
 
 そうならぬように変化をおさえ、自分たちが住みよい環境を維持するのは、人類にとって当然だ。しかしそれは「人類のため」であって、「地球のため」ではない。その表面でどんな生物が増えようと滅びようと、地球には関係ない。ただクルクル回り続ける。そんな地球のおおらかさに甘え、生物は地球に住まわせてもらっている。
 
 「地球にやさしい」とは、なんと思い上がった言葉か。「地球にやさしい」のではなく、「地球がやさしい」だけなのに。母なる地球の言葉のとおり、地球と人類は親子のようなものだ。親は子を産み、育つ環境を提供する。子は自分の未来のため、与えられた環境を守り、良くする努力をすべきなのに、与えてくれた親に感謝することはあまりない。それを当然とし、その上、親のためにしかたなく努力しているなどと考え始める。
 
 人類は地球にとって親不孝な、できの悪い子供かもしれない。しかし、その子供も60億にまで増えた。しかも、これから爆発的に増えていく。19世紀から20世紀にかけて、10億の人口が20億になるまでに130年かかった。50億が60億になるのに10年。「地球にやさしい」などと、バカなことを言っている余裕はない。自分たちの未来のために、「人間にやさしい」環境を守らなくてはならない。自分が生きてる間くらいは大丈夫だと思うけれど、その後は分からない。せめて、将来生まれるはずの自分の子には快適に暮らしてほしい。
 
 しかし、完全無欠の聖人でもない限り、誰かにやさしくあろうとすれば、必ず別の何かに迷惑をかける。やさしくあるためにはそれなりの覚悟が必要になる。簡単に「やさしく」なんて口にできるのは、よほどの脳天気だけだ。各々の快適のバランスを考え、多数が納得できる妥協点を見つけねばならない。
 
 旧ソ連の科学者ツィオルコフスキーは「地球は人類のゆりかごである。しかし、永遠にゆりかごの中で暮らすわけにはいかない」との言葉を残している。
 
 生まれて200万年、少し大人になった人類は、やさしいゆりかごから出ることさえも考える時期に来ているのかもしれない。

J-PRESS 1999年 9月号