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やさしく、あたたかく、いとおしいものすべてに
木村

 この暑い夏、体力も、精神的にも何かと疲れる季節ですが、みなさんはどんなrelaxationをしていますか。アロマにエステ?お風呂や睡眠といった日常的なことで気分転換をする人もいるでしょう。大人にはお酒やたばこもそのひとつです。
 
 「疲れた人すべてにこの曲をあげたい」。坂本龍一氏が交差点でグランドピアノをひいているTVCMが気になった人はいませんか。この曲は「energy flow」、収録されている「ウラBTTB」はかなりの売り上げで、チャートにもランクインしたそうです。それだけ何かに「安らぎ」を求めている人が多いということでしょうか。
 
 私もこの曲に惹かれ、楽譜を手に練習しています。この曲を耳にしてふとCMに見入ったあなたは相当疲れているに違いありません。
 
 キーボードやシンセサイザーとはちがって、ピアノの音は「減衰」する音ゆえに心に響くといわれます。「減衰」する音とは他にもギター、弦楽器などがそうですが、ギターは「はじく」音、弦楽器は「こする」音、そしてピアノの音は弦を「たたく」音、このようなちがいも脳にあたえる刺激に影響するそうです。また、ハ長調(♯や♭のつかない)曲ほど人を安心させる響きをもち、生演奏での残響音などが美しいといわれます。ただ、これらの条件を満たすほど、眠気を誘う要素が強く、心身ともに健康なときには「こんな眠い曲」にしかならないかもしれません。
 
 私がはじめてこのようなピアノ曲に接したのは高校2年のころです。今はやりの「ヒーリング」目的ではありません。いつも音楽室のピアノのまわりで活動していた音楽好きの私たちに、先輩が「いい曲があるから聴いてみない?」と紹介してくれたのが最初でした。George Winstonという人の曲です。彼は今では年に1回は来日し、富山市のオーバードホールでもコンサートが開催されます。このとき彼は、ヨレヨレのジーンズにサンダルばき、アヤシイ日本語で挨拶をしてピアノにむかいます。彼の曲はショパンやリストといったクラシックとはちがう、ジャズともちがう、専門の知識など何もいらない聴きやすい曲です。みなさんの中にも、TVドラマ「White Love」の最終回近くで"hataさん"が弾いた「Once In A Blue Moon」や、「Long Vacation」で"セナくん"が弾いていた曲を覚えている人はいませんか。それらとも似た、やさしい曲です。アルバム「Autumn」の3曲目「Longing/Love」(あこがれ/愛)は、当時の「トヨタ・クレスタ」のTVCMでも使われていました。ちなみに私のおすすめは、アルバム「December」の9曲目「パッヘルベルのカノン変奏曲」「Summer」の1曲目「Living In The Country」です。
 
 「ラルク~」や「ウタダ」「Dragon Ash」の曲にもそれぞれよさがあると思いますが、角度を変えて聴いてみるのもいいのではないでしょうか。タイトルの「やさしく、あたたかく、いとおしいものすべてに」は、西村由紀江さんという人のアルバム「MOON」の中の1曲目の曲名です。彼女の新しいアルバム「自分への手紙」もおすすめです。リラックスしたい人や、やさしくなりたい人はぜひ聴いてみてください。

J-PRESS 1999年 8月号