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ガタカ
木村

 最近の英語の授業の中に「将来の夢について書きなさい」というテーマで英作文をすることがありました。みなさんはこの質問に対し、何て答えましたか。「小学校の先生になりたい」、「アメリカへ行ってバスケの試合を見たい」。最近は「建築家になりたい」という人もいました。また、この英作文の答案が白紙だった人も、例文をただうつしただけの人もいました。このテーマをまじめに受け止めていない人もいるでしょう。「あなたは何か夢をもっていますか」と質問を変えたほうがいいでしょうか。夢なんてくだらない、という人も少なくないような気がします。
 
 生まれてすぐに寿命がわかる時代に、ある兄弟がいました。兄が宣告された寿命は30年、弟よりも体も小さい兄は、宇宙へ行きたいという夢を抱きます。ところが宇宙飛行士訓練学校に入るにはDNA鑑定を受けなければなりません。そこで体力も知力も抜群の者だけが入学を認められるのです。あるとき兄は、すべての条件を満たしているのに交通事故で歩けなくなったひとりの「男」の情報を得て、その「男」になることを考えます。毛髪一本からも正体がわかってしまう環境の中、兄は検査を恐れて体毛をすべて剃り落とし、「男」からは血液や尿、脈拍まで提供してもらいます。そして顔や髪型はもちろん身長も「男」にあわせ、「男」になりすまして学校に入学するのです。毎日のように繰り返される血液検査、網膜の検査、兄はその中で訓練を繰り返し、「男」として宇宙へ行くことを目指します。その学校の名前は「GATTACA」、最近見た映画「ガタカ」でのお話です。打ち上げ1週間前、正体がばれそうになっていた兄が弟にこう言っています。「俺にだって、宇宙へ行けることを証明したいんだ」また、契約で血液などを提供していた「男」は打ち上げの日、「俺はおまえから夢をもらった」とメモを残して死んでいきます。
 
 ここまでして「夢」をかなえたかった「兄」に対し、みなさんは何を感じますか。
 
 誰もが夢をかなえられる世の中ではない、私も夢に向かって進んでいるとは言い切れません。でも、まわりにいる、夢に向かって進んでいる人たちの力になり、「男」のようにまわりの人たちから夢をもらい、また自分がどう進むべきかを考えさせられているような気がします。すぐに実現できそうな、現実味のあるものばかりが夢ではありません。もしかすると実現できないかもしれない、でも、何か夢や目標を持っている人はやはりかっこいい、と自分がそういう人たちと接していて思います。
 
 小学校の先生でもいい、バスケの試合を見ることでもいい、現実味のないことでもいいから、「あなたの夢は何ですか」の問いに、白紙で答えたり、「夢を持っていますか」と聞き直されたりしない人になってほしいと思います。

J-PRESS 1998年 9月号