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私は香港で考えた
石黒

 今月のテーマは香港。日本から4時間程度のフライトということで、以前から多くの日本人が観光・仕事で訪問しています。返還前は「ビクトリアピークからの夜景って東洋一(古い表現ですみません)綺麗なのよ」「PホテルとかRホテルは部屋もサービスも最高ね」「去年の6月30日の式典の花火すごかったね」という声が多数を占めていました。最近は「円安で、ショッピングのメリットはどうもね」「ホテルも物価も高いし(現在はそうでもないそうです)、食事も全部中華って感じで」に変わり、あげくの果ては「通貨が元になったって本当?(当然香港ドルのままです)」の発言まで飛び出す今日このごろです。
 
 香港は地下鉄が発達し、観光客でも手軽に安全に利用でき料金も約70円と割安です。香港島のCENTRAL(中環)・SHEUNG WAN(上環)駅で降り山側に10~20分程度歩いていくと、前述の香港のイメージとは違った香港を簡単に体験することが可能です。駅を離れて1分もたたないうちに、摩天楼のイメージとは程遠い町並みが始まり、人々の熱気・車・2階建てトラムに追いたてられます。Ladder St.近辺では九龍半島側とは趣を異にした生鮮食料品店が軒を並べ、つい、歩くスピードが「逃亡者」になる自分を感じてしまいます。
 
 複雑な小路を勇気を持ってさらに進むとキャットストリート。いわゆるアンティーク街ですが美術的・骨董的な価値の無いものが雑然と並べられた通りにさしかかります。今から50~150年前にタイムスリップした感情にほだされ、ガラクタを何がしか買い求め「古き良き香港、英国の品物なんだな」と自分に言い聞かせて満足するのも・・・(同様の品物はソウル・バンコクでも売っています)。ランカイフォン(蘭桂坊)がオシャレだと聞き、ミーハーな気分で出かけると落胆しますが、なるほど、私自身が持っていた先入観とは違った雰囲気の香港の人々、そして香港に集ってくる色々な国々からの人々を、肌で感じ取ることが可能です。
 
 誰もが(私だけかもしれませんが)「旬を過ぎた」と思っている香港にも、ひょっとして「物」以上の何かが隠れていそうに思われてなりません。カイタック(啓徳)空港付近の有名な「香港カーブ」(飛行機の最終着陸がスリル満点)を地上から見るには、九龍城跡の近くにある、古ぼけた5階建てのショッピングセンターの屋上からがベストでお勧めです。幸い香港では新しいチェック・ラップ・コック(赤鯔角)空港のオープンが遅れ、7月6日になるとのこと。香港カーブを味わいながら「旬を過ぎた香港」を体験するチャンスが、もうしばらく続きそうです。

J-PRESS 1998年 4月号